
国連は海を守れるのか?
深海採掘に関する懸念が科学的にも示されており、かつ環境影響が国境を超えて及ぼされることは容易に想定されるものの、国際的な規制については現在のところ存在していない。しかしながら、公海における深海採掘については国連機関の一つである国際海底機構(ISA)がガイドラインを作成中であり、現在のところ各国の排他的経済水域内で行われる深海採掘についても原則として今後発行される見通しであるISAガイドラインに準拠するべきであるという考え方は広く受け入れられている。
しかし、それで海は守れるのか?

二年ルール
ISAのガイドラインは現状何も合意されていない中で、加盟国の一つであるナウルの要望で「2年ルール」が2021年6月に発動された。この「2年ルール」というのは加盟国が発議して以降、2年以内に合意されたものをISAガイドラインとして認め、採掘許可の発行を開始するという取り決めである。仮に2023年6月までにISAとして何らガイドラインの合意にたどり着けなかった場合は、このままでは何も規制が存在しないまま最初の採掘許可が発行されてしまうこととなるだろう。そしてそれは前例となり、世界各地の海底鉱床で規制のない採掘行為が始まってしまいかねない危機的状況にある。
企業主導で進められる
ガイドライン作り
ISAが現在検討しているガイドラインには環境NGOを含む市民社会の参加が保障されているプロセスではなく、採掘権の要望を出している企業が主体となったガイドライン形成プロセスになっている。というのもガイドラインを形成する会議は深海採掘に関心を示している企業やそのコンサルタント、それら企業の採掘権を引き受けるISA加盟国らによって進行されているものだからである。すなわち深海採掘を早期に実現することに経済的な利権を持つ関係者が規制枠組みをつくっているのである、NGOらはこの会議の中でオブザーバーの権利しか持たされていない。
例えば、採掘を推し進めようとするThe Metals Company (TMC)の代表はしばしば「ナウル代表」として会合に参加し、発言している。
なぜ、一企業の職員が国の代表になれるのだろうか?


国際海底機構の利益相反
現在のドラフトでは採掘行為によってISAがロイヤリティを受け取るルールとなっており、これが実現するのであればISAが深海採掘を取り締まるのは大きな利益相反を生むことになる。ISAが監視・規制する構造そのものを骨抜きにするルールが検討されているのだ。
ISAは地図に示されているように多くの採掘契約をすでに結んでおり、これら商業採掘が実現することでISAには多額のロイヤリティが入ることになる。
この点以外にも現状のISAにおけるガバナンスが非常に脆弱であり、海底資源が一部の先進国や資産家に独占させることを防ぐための機関として監視の目が行き届いていない事例が複数報告されている。